カネボウ化粧品の美白化粧品で肌がまだらに白くなった被害者について、同社の一部支社が問題発現が発覚した。昨年8月、損害賠償を求めてくる可能性がある「地雷原」と警戒し、対応を協議していた。自社製品で発症した顧客を侮辱するかのような表現だけに、被害者の反発は必至。
企業の倫理観が問われそうだ。
「地雷原」は、同社が当該化粧品の自主回収を発表した約一か月後の昨年8月2日に中日本支社で開かれた幹部会議で使われた資料に記載された。資料は、被害者を「(慰謝料の支払いを求めてくる)賠償請求地雷原」とみなし「地ライはどこから出現する見当がつかない」と注意を喚起した。
白斑問題が発覚した直後のマスコミの報道ぶりを「無差別報道」と批判。相次ぐ消費者の問い合わせに当初うまく応じられなかった状況を「病原体」と形容詞、その増殖が批判拡大につながったとした。賠償を無差別報道、批判拡大に同時に直面して「防戦一方」の事態に陥ったとし、問題が深刻化した責任をこうした要因に転嫁するかのように表現した。
今後、提起された訴訟に影響を与えそうだ。
静岡市に住む50代の女性は「地雷という言葉が出てきたことに驚いた。被害者は私たちなのに、カネボウ川は自分たちがいじめられていると思っているのか」と怒りの表情を見せた。
中日新聞:1面
企業倫理が崩壊した名だたる企業たち
かつて、この手の問題はたびたび表に出てきた。「雪印乳業食中毒事件」「ミートホープ食肉偽装事件」が記憶に新しい。TVでも頻繁に取り上げられたため、記憶している人も多いだろう。これらの企業は、かつてその分野で「ブランド」と呼ばれていた一流企業である。
いったいこれらの企業に何が起こったのか。
過去を振り返ることで今後のカネボウの行く末がわかるハズだ。
雪印乳業集団食中毒事件
2000年6月25日、雪印乳業大阪工場(大阪府大阪市都島区)で製造された「雪印低脂肪乳」を飲んだ子供が嘔吐や下痢などの症状を呈した。6月27日に大阪市内の病院から大阪市保健所に食中毒の疑いが通報された。6月30日に保健所から大阪工場に製品の回収を指導した。
この頃には各地から食中毒の情報が入ってきていたが、大阪工場は言を左右にして応じようとしなかった。
6月29日に事件のプレス発表と約30万個の製品の回収が行われたが、既に対応が遅れ、プレス発表後は被害の申告者が爆発的に増え、大阪府・兵庫県・和歌山県など広範囲に渡って14,780人の被害者が発生するという前代未聞の集団食中毒に発展し、世間を震撼させた。
被害者の訴えた症状は嘔吐・下痢・腹痛であり、総じて比較的軽いものであったが、入院に至った重症者もいた。
原因と雪印乳業のおそまつな対応
事件直後の7月1日に行われた会社側の記者会見では、大阪工場の逆流防止弁の洗浄不足による汚染が明らかにされた。
大阪保健所も、それ以上の原因追及は行わなかった。しかし、大阪府警のその後の捜査により、大阪工場での製品の原料となる脱脂粉乳を生産していた北海道広尾郡大樹町にある大樹工場での汚染が原因であることが判明した。2000年3月31日、大樹工場の生産設備で氷柱の落下で3時間の停電が発生し、同工場内のタンクにあった脱脂乳が20度以上にまで温められたまま約4時間も滞留した。
この間に病原性黄色ブドウ球菌が増殖して毒素(エンテロトキシンA)が発生していたことが原因であった。
本来なら滞留した原料は廃棄すべきものであったが、殺菌装置で黄色ブドウ球菌を死滅させれば安全と判断し、脱脂粉乳を製造した。ところが、殺菌で黄色ブドウ球菌が死滅しても、菌類から発生した毒素の毒性は失われない。この毒素に汚染された脱脂乳を飲んだ子供が食中毒を起こすこととなった。同社は、1955年(昭和30年)にも八雲工場(北海道山越郡八雲町(当時))で同様な原因による雪印八雲工場脱脂粉乳食中毒事件を起こしており、事故後の再発防止対策にも不備があったと推測される。
このため、雪印グループ各社の全生産工場の操業が全面的に停止する事態にもなり、スーパーなど小売店から雪印グループの商品が全品撤去され、ブランドイメージも急激に低下した。
その際、報道陣にこの事件を追及された当時の社長、石川哲郎は、エレベーター付近で寝ずに待っていた記者団にもみくちゃにされながら、会見の延長を求める記者に「では後10分」と答えたところ「何で時間を限るのですか。時間の問題じゃありませんよ。」と記者から詰問され、「そんなこと言ったってねぇ、わたしは寝ていないんだよ!!」と発言。
一方の報道陣からは記者の一部が「こっちだって寝てないですよ、そんなこと言ったら! 10ヶ月の子供が病院行ってるんですよ!」と猛反発。石川哲郎はすぐに謝ったものの、この会話がマスメディア等で広く配信されたことから世論の指弾を浴びることとなった。
雪印乳業集団食中毒事件より引用
ミートホープ食肉偽造事件
2002年、元工場長の告発により地元紙に食品偽装事件が掲載されたが、社名と地域は報道されず、公的機関も動かなかった。ミートホープ社の常務だった赤羽喜六は行政指導によって改善しようと保健所、役所に告発するが断られた。
遂に逮捕を覚悟で警察に訴えるが、被害届がないことから確認が難しく、このような難件に割く人員はいないと受け入れてもらえなかった。2006年4月、赤羽は会社の食品偽装を告発するためミートホープ社を退社し、後に数名の幹部も退社、この告発メンバーに加わった。
彼等は北海道新聞社とNHKにも告発文を送ったが、両者はこれを黙殺した。しかし2007年春に事態は一変する。告発を知った朝日新聞が調査を開始し、DNA検査によって牛か豚かを調べた結果、偽装が立証される。同年6月20日、同紙上で北海道加ト吉(加ト吉の連結子会社)が製造した「COOP牛肉コロッケ」から豚肉が検出されたことが報道された。
加ト吉が事実確認を行ったところ、北海道加ト吉には原料の取り扱いミスはなく、ミートホープ社の責任者は加ト吉に「納入している牛肉に豚肉が混ざっていた」と報告した。同紙の取材にも社長は「故意ではなく、過失」であったと強調していた。
この件に対し、記者会見で社長は当初否定していたが、元社員らが社長自ら指示し関与しているとの報道がされると、取締役であった社長の長男に促され、記者会見で社長が関与を認めた。この時社長は、どのように肉を混ぜるのかという単価計算のされた紙を持っていた。
その後、牛肉100パーセントの挽肉の中に豚肉、鶏肉、パンの切れ端などの異物を混入させて水増しを図ったほか、色味を調整するために動物の血液を混ぜたり、味を調整するためにうま味調味料を混ぜたりしたことなどが判明。
その他にも、消費期限が切れたものをラベルを変えて出荷したり、腐りかけて悪臭を放っている肉を細切れにして少しずつ混ぜたりするなどの不正行為、牛肉以外にもブラジルから輸入した鶏肉を国産の鶏肉と偽って自衛隊などに販売していたことや、サルモネラ菌が検出されたソーセージのデータを改ざんした上で小中学校向け学校給食に納入していたことも明らかになっている。
6月24日、北海道警察と苫小牧署は不正競争防止法違反(虚偽表示)容疑で本社など10ヶ所の家宅捜索を行った。
社長はマスコミの取材や裁判に於いて、「半額セールで喜ぶ消費者にも問題がある」「取引先が値上げ交渉に応じないので取引の継続を選んだ(コストダウンのため異物を混入させた)」などと他者に責任を転嫁する発言を繰り返し、消費者に謝罪するような発言をすることはなかったという。
一方で、北海道加ト吉の工場長が本来捨てるべきであるコロッケをミートホープ社に販売して20~30万円の利益を不正に受け取っていたことも明らかになった。この収益は会社の利益に計上せず社内の懇親目的に使用していたといい、この工場長は同日付で解任された。
これに絡み、加ト吉創業家の加藤義和は経団連理事の他、社外の公職をすべて退いた。また、ミートホープ社元幹部が実名を明かして2006年春に農林水産省北海道農政事務所に不正挽肉の現物を持参して調査を依頼したが、同事務所はこれを受け取らず、実質的に指導も行わなかった。農水省調査では、事務所への訪問記録はあるが、肉の持ち込みを確認する情報は残されていなかったと回答した。
農水省は「北海道内の業者と認識したため、3月24日に道に対応を依頼した」としているが、北海道庁環境生活部は「そのような記録は無い」とした。なお、2006年時点でミートホープ社は東京事務所を開設しているため、管轄は農水省にあったという。
その後、この幹部は朝日新聞に告発し、偽装事件の第一報となった。これら一連の情報は内部告発が発端となったもので、公益通報のあり方に一石を投じる事件でもあった。
ミートホープ事件より引用
失墜した多くのブランド企業と重なるカネボウ
今回の新聞記事には衝撃を受けた。カネボウはあろうことか「自分(カネボウ)は被害者」、「訴える人は攻撃者」と見ていたのである。
カネボウの謝罪会見はいったいなんだったのか?「申し訳ございません、被害者の方々には誠心誠意…」と言っていたのだが、単なるパフォーマンスだった可能性が高い。「雪印乳業集団食中毒事件」と「ミートホープ食肉偽装事件」と同じ構図である。「自分はむしろ被害者なんだ、私たちの対応を非難する者こそ加害者だ」という思いが透けて見える。
カネボウは気づいているのだろうか?
一度ブランドが地に落ち、被害者を悪者呼ばわりする企業は二度と再生できない。
それは過去の例から見ても明らかである。私はカネボウはもう立ち上がれないと思う。経営陣を含め、企業幹部のクビを全員切ったとしても、厳しいだろう。会社内に長年鬱積(うっせき)した倫理は簡単には消せないからである。今日までカネボウの製品を愛用してくれた消費者を裏切った代償はとてつもなく重い。
今、カネボウの社員は何を思うのだろうか。
その思いは、もはや人々には届かないのかもしれない…。